台湾東海岸の街、花蓮(Hualien)。
太平洋を見渡す美崙山の上にあった日本の花蓮港陸軍兵事部。
現在は松園別館(Pine Garden)として公開されています。
松園別館 Pine Garden
1942年、花蓮港を見渡す美崙山に建設された和洋折衷の建物、松園別館(Pine Garden)。
周囲は松の葉に覆われたこちらの敷地は、元は花蓮港陸軍兵事部のオフィスとして使われていたものです。
屋根は瓦、1・2階の回廊は西洋式と、和洋折衷の建物。
建物の装飾が地味なのは「完成までのスピードを重視」したからだそう。
現在はむしろ、シンプルで凛とした佇まいが一層気品を感じさせます。
松園別館の観海休憩台から眺めるオーシャンビュー。
高台という特性を活かし、日本統治時代は軍艦や船舶の監視、南機場の飛行機の離発着を確認していました。
こちらの立地は周囲の松で覆い隠していたため、外部からの目を隠すのにも適していたようです。
事実、米軍の爆撃により現花蓮東大門夜市近くの旧花蓮駅は消失しましたが、旧花蓮港陸軍兵事部(松園別館)はご覧の通り残っています。
松の葉による隠れみの術は効果があったのでしょうか?
手前の赤い橋は菁華橋。
奥は曙光橋。
昔も今も主要な橋の架かる位置は変わっておらず、日本統治時代は手前に昭日橋、奥に日出橋がありました。
琉球松
建物の周囲を取り囲む松は琉球松。
1921年、台湾の林業発展のために塩害に強い琉球松を沖縄から運んで植えたもの。
樹齢100年超。
2003年には60本あったものが、病気によって現在は31本にまで減ってしまったのだとか。
絞め殺しのガジュマル
台湾光復後、現松園別館は長い間手入れがなされませんでした。
周囲のガジュマルが成長し、入り口の石柱を絞め殺しています。
松園別館入り口前に現存する石柱です。
この石柱を飲み込むほどのガジュマルの力に驚嘆します。
防空壕
細く狭い階段を下った先にある防空壕。
突然の雨が降りやすい台湾の地を考慮し、地面は「雨水が浸透しやすい砂地」になっており、水捌けのために「海に向かってゆるい傾斜」が取られています。
防空壕内側には神風特別攻撃隊の解説が写真付きで紹介されています。
台湾出身の特攻隊員の写真も掲げられていました。
日本でもよく見かける写真が掲示されており、胸が詰まります。
木製小屋
日本軍が重要な会議を行う場所だった木製小屋。
神風特別攻撃隊の出撃前「御前酒」がふるまわれた場所でもあり、終戦後は指揮官が建物内で自害を行った場所でもあるという。
台湾からは新竹、宜蘭(花蓮から約80km北)から特攻隊の出撃が行われました。
松園別館の敷地内で最も腐食しており天井も床も腐ってしまった木製小屋。
現在は修復により綺麗になり、ワークショップの開催場所になっています。
日本統治時代に天皇の写真が飾られていた中央の神棚。
中央の建物
三方向の階段です。
軍事施設によくある避難しやすい形状。
映画『日本のいちばん長い日』のシーンでもあったような。
二階から太平洋を見おろす。
この日は曇天でしたので、花蓮ブルーを拝めず。
瓦の苔と松の葉。
松園別館のチケット料金・入場料
松園別館の入場料は大人NTD50元(子供NTD25元)。
音声ガイドは中国語・英語・日本語に対応しており1台NTD100元。
利用にはパスポートが必要(利用中はパスポート預け入れ)となります。
ほぼ同様の内容が現地パネルに記載されているため、音声ガイドはレンタルしなくてもよいと思います。
松園別館の場所・行き方・アクセス
松園別館は花蓮駅から徒歩約39分、将軍府からは坂道を上り徒歩約13分です。
花蓮駅からタクシーで向かう場合はNTD150元前後。
おわりに
日本統治時代は軍人がいる場所のため近づくことが許されず、台湾光復後も修復前は暗いイメージが残り「鬼域」と呼ばれ誰も近寄らなかった松園別館。
現在は建物の修繕が綺麗に行われて過去の暗いイメージを払拭し、観光地&文化発信スポットになっています。
(花蓮の花蓮文化創意産業園区や台南の林百貨店、安平樹屋もそうですが、台湾は歴史ある古い建物を活かしながら文化発信スポットとして甦らせるのが上手だと思います)
松園別館と合わせての訪問におすすめな場所が、坂の下にある「将軍府」。
将軍府には昔の花蓮港周辺を再現した模型や、花蓮の昔の写真が掲示(解説文は中文のみ)されており、より一層、花蓮の歴史に触れることができます。
将軍府には土日だとボランティアのガイドさんがいらっしゃることも。
わたしが将軍府を訪れた際は、日本統治時代の花蓮を知るおじいさんが上手な日本語で説明してくださりました。おじいさんが少年の頃、こちらの坂は「陸軍坂」と呼んでいたそうですよ。