アイヌ語で「インカルシペ」と呼ばれた標高531mの藻岩山へ。
原始林の向こうに広がる、200万人都市。
藻岩山 Mount Moiwa
札幌の街の南西部にある藻岩山(Mt. Moiwa)。
標高531mの藻岩山は、アイヌ語で「インカルシペ」。
アイヌ語の意味は「いつもそこに上って見張りをするところ」。
幕末の探検家 松浦武四郎が遺した『後方羊蹄日誌(しりべしにっし)』には、アイヌ民族が信仰していた「尊い神の山」との記述を残しています。
「西岸にエンカルシベと云う山有り。椴木立也。往古より山霊著しき由にて土人等深く信仰せり。余は此所に蝦夷總鎮守の宮を建てんことを記す」
元来、アイヌの人々が「モイワ」と呼んでいたのは「小さい山」を意味する、現在の「円山」です。
開拓使は京都のような碁盤の目の町をつくるにあたり、「モイワ」の呼称を円山村から取って「円山」に変更しました。
一方のインカルシペについては、和人がインカルシペの読みに近い笑柯山(えんがるやま)と呼んでいたものの定着せず、開拓使が「モイワ」の呼称を引越しさせて、藻岩山に変更した歴史があります。
豊かな落葉広葉樹林が生茂る藻岩山原始林。
1921年(大正15年)、藻岩山の北側斜面は国の史跡名勝天然記念物に登録されています。
計画的な伐採に入ったことがなく森林破壊されていないため、豊かな植物相・動物相がそのまま保存されています。
春を迎えると長い冬眠を終えたヒグマが札幌の山々を闊歩しますが、札幌市から発表されるヒグマ出没情報の大部分が、この藻岩山の近辺です。
あの鬱蒼とした緑の中にも、きっといるでしょう。
藻岩山が誕生したのは、今より「280万年前〜240万年前」の噴火。
支笏火山が噴火したのは「4万年前」ですから、札幌市内の身近にある藻岩山の方がその歴史は長いのです。
もいわ山ロープウェイ Mt. Moiwa Ropeway
藻岩山山頂までは、ロープウェイとケーブルカーで簡単にアクセスできます。
山麓駅から中腹駅まではロープウェイ(片道5分)、中腹駅から山頂駅まではケーブルカー(片道2分)。
山麓から山頂までの乗車料金は往復「大人:1,800円」「子供:900円」です。
藻岩山展望台
藻岩山展望台の頂上デッキへ。
天然記念物である藻岩山原始林の向こう。
碁盤の目のように区画整理された、札幌の街並みが広がっています。
JR札幌駅の展望台スリーエイト(38)の入るビル、大通駅周辺、さっぽろテレビ塔、すすきの。
奥にはつどーむ、丘珠空港の滑走路も見えます。
その左手には、緑豊かな北海道大学の敷地。
北海道神宮や動物園のある円山。
元々モイワだった場所。
すすきのの南側には、豊平川と中島公園。
東へ目を向けると、北海道日本ハムファイターズの本拠地である札幌ドームが輝いて見えました。
この日の空は雲に覆われていたので見えませんでしたが、晴れた日には芦別岳や夕張岳を望めます。
南側の眺望。
左手奥には真駒内滝野霊園の頭大仏殿とモアイ像、中央奥には支笏湖の向こうにある樽前山を望みます。
藻岩山原始林を歩きながら、北海道固有の動植物を観察したり撮影をするのも良いでしょう。
1892年(明治25年)に日本を訪れたアメリカ人の植物学者サージャントをして、こう言わしめました。
「土地の気候、山の大きさの割に極めて樹木が豊富で世界的にもめずらしい」。
夜景
札幌の藻岩山展望台から望む夜景は、函館の函館山、小樽の天狗山とともに「北海道三大夜景」に選出されており、北九州市、長崎市とともに「日本新三大夜景」に選出されています。
言葉を選ばずにいえば、日本人のみが満足しそうな安易なフレーズに頼り切ってしまうのは非常にもったいない。
藻岩山の夜景が他の数多ある夜景と圧倒的に異なる点は、漆黒の世界と化した藻岩山原始林の向こうに煌びやかな夜景がある、この類稀なるコントラストでしょう。
豊かな動植物相が残る太古の自然の向こう側に、明治維新後わずか百数年で200万人都市に成長した札幌の街があるのです。
これこそ、藻岩山展望台が持つオリジナリティ、他にはない魅力なのです。
原生林の向こうに、200万人都市の光。
夏の夜景。
冬の夜景。
豊平川と満月。
こちらは円山。
藻岩山の場所・行き方・アクセス
藻岩山の山頂までは「もいわ山ロープウェイ」でアクセス可能。
札幌市電の「ロープウェイ入り口」で下車し、無料のシャトルバスに乗り換えて「もいわ山ロープウェイ山麓駅」まで行くことができます。
山頂までは藻岩山登山道が整備されており、合計5つある登山コースを歩いて行くことも可能です。
詳しくは藻岩山の公式サイトをご確認ください。
藻岩山はアイヌの人々にとって物見をする山であり、尊き神の山。
藻岩山から山鳴りがすれば大吹雪や恐ろしい疱瘡が流行すると信じられており、山鳴りがすれば山猟に行っている者もすぐに逃げ帰りました。
藻岩山展望台から素敵な夜景を見る前に、天気予報の確認をお忘れなく。
参考文献:『さっぽろ文庫12 藻岩・円山』札幌市・札幌市教育委員会(著)/昭和55年3月25日発行